小児緩和ケア児の「生きる体験」を支える活動の紹介
本研究について
本研究は、小児緩和ケア児が、家族と共に生きていく中において、大人になる中で体験するべきさまざまな事柄(あそび、学校、友達作り、等)を支援するのに必要な要素を家族からお聞きして、各専門家と共に考察して、ブックレットにまとめることを目的としております。
小児緩和ケア児は、もちろん入院中の子どももいますが、近年は早期退院が目指されているため、ほとんどが家族とともに在宅生活を行っています。在宅で過ごすために利用できる社会資源には、訪問医療・訪問看護・ショートステイ、医療型児童発達支援(通所支援)、訪問授業などがありますが、「安心して預けられない」「近隣に施設がない」「医療的ケアに対応してくれない」等が理由で利用できていない子どもも少なくはありません。(厚生労働省,2016/2017)。さらに、学齢期になり支援学校に通っていても家族が1日付き添うことを求めている自治体もあり、在宅で過ごす小児緩和ケア児は、子どもらしく過ごす場所や時間に制限を受け、その年代に経験すべきあそびやまなびや友達作りなどの「生きる体験」が十分に得られにくいとも言えます。
小児緩和ケア児は、医療面の保証が重要なのは言うまでもないことですが、「生きる体験」を保証するという視点も重要と考えられます。しかし、病状や障がいの重さによっては、その達成には本人及び家族の努力のみでは達成できず、支援が不可欠と考えられますがその詳細が記されているものは稀有であります。
そこで本研究は、小児緩和ケア児に「生きる体験」を保障するために必要な支援を明らかにし、ガイドブックという形でまとめたいと思っています。そのためには、まず家族から現状や希望を聴取したいと思います。次に、現在そのような支援している人たちから、支援のために必要と考える事などについて聴取を行いたいと思っています。
聴取から「子どもにとっての『生きる体験』を感じられたこと」「それがどのような支援によって得られたか。支援者に何を求めるか」を明らかにし、小児緩和ケア児の「生きる体験」を保障するために必要な支援を検討し、ガイドブックを完成することで、小児緩和ケア児の「生きる体験」支援の一助としたいと考えて居ます。
リンク
小児緩和ケア
小児緩和ケア
「小児緩和ケア」はあまり聞きなれない言葉と思います。英国ACT/RCPCHの定義がよく引用されています。
生命を脅かす疾患を持つ子どものための緩和ケアとは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要素を含む積極的かつ全人的な取り組みである
それは子どものQOLの向上と家族のサポートに焦点を当て、苦痛を与える症状の管理、レスパイトケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである
A guide to the development of children’s palliative care services. ACT/RCPCH (2003)
ここで、この定義について、3つのポイントを解説します。
①対象となる子ども(いわゆる小児緩和ケア児)を、「生命を脅かす疾患を持つ子ども」と記しています
つまり、 「余命が〇ヵ月、〇年」といった余命が限られた子ども達だけが対象ではありません。
年間におおよそ10%ぐらいの率で死亡してしまうとか、大人になれる可能性が半分程度とかいった具合に、重い病気や障がいのために、または合併症が生じやすいためリスクが高い状態で生きている子どもたちとも言い換えられます。
疾患の種類としては、英国の調査では、 先天性疾患・染色体異常症(26%)、非進行性の脳障害(23%)、進行性中枢神経疾患(14%)、小児がん(13%)、神経筋疾患(11%)、呼吸器疾患(5%)、その他(8%)とされています。( The BIG Study for Life-limited Children and their Families 2013 )
先天性の疾患や、重い障がいがある子ども達の割合が高い状態である事がわかります。
②小児緩和ケアの4つの側面
「身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要素を含む積極的かつ全人的な取り組み」と記されています。
これは、医療的なケアや支援、障がいに対する福祉的な支援など身体的なケアはもちろん大切であるが、精神的なケアや社会的なケアやスピリチュアルなケアも積極的に施行しましょうということです。
在宅で暮らされることが多くなっている小児緩和ケア児に、精神的なケアを施すには、その担い手が必要ですが、積極的にケアを施すのは誰になるのか?(どの職種か?)突き詰めると日本においては答えが難しいかもしれませんが、「あそび」等の時間がその一つではあります。
社会的なケアも同様ですが、子どもにとっての社会は、学校や友達がいることであり、学校の力が大きいところかもしれません。スピリチュアルなケアは、「死んだらどうなるの?」とか「自分は何のために生まれてきたんだろう?」といった問いや悩みへのケアなどです。欧米では宗教者が担うこのケアは日本ではケアの担い手が難しいところではあります。
子どもに全人的なケア(トータルケア)のために必要な事は多く、子どもと家族を中心にして、医療者、教師、福祉関係者、ボランティアなど、多職種の連携が必須であると考えられています。
③小児緩和ケアの内容
小児緩和ケアの内容として、「子どものQOLの向上と家族のサポートに焦点を当て、苦痛を与える症状の管理、レスパイトケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである」と記されています。
子どものQOL(生活の質)の向上と、家族(保護者、きょうだい)のサポートの両方を、最も大切なことと考えることが示されています。
- 苦痛な症状を和らげること(症状緩和)、レスパイトケア(ケアの息抜き・ショートステイ等)を具体的な行為として記しています。
- 亡くなられるお子さんに関してですが、終末期ケア・死別後のケアの大切さを改めて記しています。
小児緩和ケアと生きる体験
「緩和ケア」と聞くと、 成人の緩和ケアのイメージである、がんの終末期ケアを想像してしまうかもしれません。小児緩和ケアにおいても、もちろんがんの終末期ケアはとても大切ですが、それ以外の要素も大きい事が理解いただけたと思います。体に重い病気や障がいがある子どもと、その家族のトータルケア(全人的なケア)は、大切なことであります。
わが国では、残念ながら小児緩和ケアの認知度はとても低い状態でした。しかし、2012 年の第二期がん対策推進基本計画で、小児への緩和ケア提供の必要性が示されて以来、体に重い病気や障がいがあり小児緩和ケア対象と考えられる児(以下小児緩和ケア児)に向けた、多職種・多機関の連携による全人的なケアの必要性が高まってきています。
生きる体験
子どもが日々を暮らし、成長発達し大人になっていくためには、様々な体験を行っていきます。
それは、日常生活、あそび、まなび、友達つくり、外出や旅行等によって得られる心地よい感覚や自分らしく成長できる体験、などさまざまな体験であります。これを「生きる体験」と呼んでいます。
「生きる体験」は、楽しいことや嬉しいこと以外にも、失敗したり辛い思いをしたり我慢したりなど、も含まれていると考えています。
小児緩和ケア児は、外出が困難であったりなどと制限が大きいため、「生きる体験」が偏ってしまうことが予測されます。どうしてもしたい「生きる体験」や成長発達のために必要な「生きる体験」が支援がなければ、本人と家族の努力だけでは達成できないことがあると思われます。
小児緩和ケア児にとっての「生きる体験」について、具体的なことを、今回の研究で、改めてご家族に聞いていきたいと思っています。
支援があれば様々なことにチャレンジし体験していくことが可能であり、体験を積むことで子どもは成長発達していきます。この支援として必要な事を、本研究で考えていければと思います。
研究の内容の紹介・研究の予定
2019年度に施行した内容
- 先行研究の調査と先行事例の検討
- 小児緩和ケア児の支援にかかわる、多方面の専門家の方々への聞き取り調査
- 質的検討のための依頼文・アンケートフォーム作成
- 研究を審査するための倫理委員会への申請書提出(COVID19による非常事態宣言のため開催延期による待機)
- 研究班主催のグループ討論会の企画(COVID19による非常事態宣言のため延期)
- (関連企画)スペシャルキッズサポーターの集い企画(COVID19による非常事態宣言のため延期)
2020年度に実施予定の研究について
- 小児緩和ケア児のご家族の方へ 聞き取り調査(10人程度の方を代表とした聞き取りと質的帰納的研究)
- 小児緩和ケア児の支援者の方々へのアンケートフォームを用いた聞き取り調査( 10人程度の方を代表とした聞き取りと質的帰納的研究)
- ホームページ開設と、小児緩和ケア児家族・支援者の方からのご意見の拝受(参考意見としてお聞かせいただく)
- 研究班主催のグループ討論会の企画
- (関連企画)スペシャルキッズサポーターの集い2021(2021.3を予定)
- (関連企画)ホームページによる、小児緩和ケア児の支援に関する企画(講演会、イベント等)の紹介
- その他
2021年度に実施予定の研究について
- 研究班主催のグループ討論会
- 調査結果を基にしたガイドブックの開発
- (関連企画)スペシャルキッズサポーターの集い2022(2022.3を予定)
- (関連企画)ホームページによる、小児緩和ケア児の支援に関する企画(講演会、イベント等)の紹介
- 学術集会発表や専門書籍への掲載などへの研究結果公表
- その他
ブックレット製作状況
研究班紹介、主な研究協力者の紹介
研究班紹介
主研究者:岡崎伸(大阪市立総合医療センター小児神経内科副部長)
所属学会:日本小児科学会(専門医、指導医)、日本小児神経学会(専門医)、日本てんかん学会(専門医
研究テーマ:小児神経関連、てんかん関連、小児緩和ケア関連、難病児(家族)ボランティア関連
論文
- 小児神経疾患における呼吸障害の管理 、岡崎伸、脳と発達 52巻、3号、165-170 2020年
- 小児緩和ケアと遊びー医師の視点から、岡崎伸、育療、65. 2020年
- 民間での難病児支援 “スペシャルキッズ・スペシャルケア”の提案、岡崎伸 難病と在宅ケア、23巻、50-54、2017年
- 小児緩和ケアの理論とエビデンス、岡崎伸 脳と発達49巻、5168-5168, 2017年
- 小児医療者からみる「病院のなかの教育支援・復学支援」、岡崎伸 小児看護、39巻、1379-1383、2016年
- 急性 / 慢性疾患について最善のケアや方針を提供するための対話 (コミュニケーション) 、岡崎伸 脳と発達 48巻、5204-5204, 2016年
分担研究者:合田友美(宝塚大学、小児看護学 教授)
所属学会:日本小児看護学会、日本小児がん看護学会、日本思春期学会、日本小児保健協会、日本育療学会、日本看護科学学会、日本看護学教育学会、日本看護研究学会、日本健康教育学会他
論文
- 小児看護学実習における外来実習での看護学生の学びの実態-テキストマイニングによる実習記録の解析から-,合田友美,河合洋子,日本小児看護学会誌,28巻,107-112,2019年
- 看護系大学における慢性疾患の学生に対する授業での困り事と対応の実態,河合洋子,大見サキエ,合田友美,滝川国芳,高等教育と障害,1巻1号,52-60,2019年
- 看護系大学における慢性疾患の学生の支援体制の実態~就学支援のあり方と学生の情報の扱いについての考察~河合洋子,大見サキエ,合田友美,滝川国芳,日本育療学会誌,第62号,22-30,2017年
分担研究者:西田千夏(宝塚大学、小児看護学 准教授)
所属学会:日本小児看護学会,日本子ども家庭福祉学会,日本こども学会,日本育療学会,日本看護科学学会,他
論文
- 発達支援を要する子どもとその親への看護実践に看護師の内省が関与する過程,西田千夏,日本看護研究学会雑誌, 43巻, 2号, 211-219, 2020年
- 看護系大学における小児看護学技術演習に乳児と母親が模擬患者として参加する意義,西田千夏・合田友美・中尾幹子,香川母性衛生学会誌, 19巻, 1号, 9-16, 2019年
- 発達支援を受けている子どもの親が子どもを洞察するプロセス-親の内省機能が及ぼす影響の検討-,西田千夏, 日本小児看護学会誌, 24巻, 2号, 10-17, 2015年